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大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)3318号 判決

福徳相互銀行

理由

一、請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二、請求原因2(争点一)の事実について。

《証拠》を総合すると、請求原因1の定期預金の満期日に被告が質権の実行をなさずに元金及び利息を全額原告に返還し、原告がそのうち金七八〇、〇〇〇円について質権設定のない新たな定期預金をなしたものではなく、右定期預金は期間六カ月の自動継続定期預金(利息を元本に組み入れて預金を継続する定期預金である。)で、昭和三八年一〇月二六日をもつて更新されていたが、これに対し原告から利息を支払つてもらいたい旨の請求があり、被告はこれを支払うことにしたが、利息を支払うと自動継続の取扱ができないので、同年一二月一〇日、右定期預金の利息のみを支払い、同時に右定期預金証書を書替え、番号二〇一二〇号の普通定期預金証書とし、これを被告において預つたものであることが認められ、右認定に反する原告本人尋問(一、二回)の結果は前掲証拠にてらして措信し難く、他に右認定を左右する証拠はない。一般銀行のため質権の目的とされていた右銀行に対する定期預金債権についていわゆる書替が行なわれた場合には、既経過分の利息を銀行において任意支払うなどの事情があつても質権はその新定期預金に及ぶものと解されるところであり、右認定のように原告に対し利息を支払つて定期預金証書を書替えた本件の場合において、これと異別に解すべき特段の事情も認められないのであるから書替後の右定期預金債権についても質権は及んでいるものといわなければならない。

三、請求原因3の事実は当事者間に争いがない。そうすると、被告の質権の実行によつて、原告の被告に対する定期預金債権及びその利息債権はすべて消滅したものであるから、定期預金債権の存在を前提とし、その支払を求める原告の本訴請求は理由がない。

四、請求原因4、5の事実は当事者間に争いがない。

五、請求原因6(争点二)の事実について。

《証拠》を総合すると、「訴外前中芳太郎は、昭和三四年頃から被告と取引があり、被告(神戸支店)に原告主張の根抵当権を設定して被告から同三六年五月頃金五〇〇、〇〇〇円を借りていた。同訴外人は原告に対しても債務があつたが、同三八年四月頃、原告から被告に対し同訴外人に金三、〇〇〇、〇〇〇円程貸してやるように申入れがあつた。原告は以前から被告に協力しており、当時芦屋市の旧深江村の村有財産を処分する話が出ており、処分すると被告に預金する話も出ていたときでもあり、被告としては同訴外人の返済能力も考慮して金二、〇〇〇、〇〇〇円を同訴外人に貸付けることとし、その担保としては前記根抵当権を被告尼崎支店に移管してこれを充てるとともに、同訴外人が借受けた右金二、〇〇〇、〇〇〇円のうちから金七八〇、〇〇〇円を原告に返済し、その全額を原告が被告(尼崎支店)に定期預金をし、これに対し被告が質権を設定したものである。従つて金七二〇、〇〇〇円は無担保であつた。その後、同三九年二月初当時右貸付金のうち元金一、四五〇、〇〇〇円及び利息約金四、〇〇〇円が残存し、取引約定によりこれを一時に完済すべき状態になつていたので、被告は同訴外人に弁済方を督促していたところ、同訴外人らから前記根抵当権の目的物件である家屋を任意処分してその代金中からの右根抵当権の極度額以上である約金六七〇、〇〇〇円を弁済する旨の申入れがあり、右根抵当権を実行しても極度額金五〇〇、〇〇〇円の回収すら困難な状況にあつたので、被告は競売手続による根抵当権の実行に代えて同訴外人らに任意処分を許し、右極度額を超える金六七〇、〇〇〇円の弁済を受けるのと引換えに右根抵当権の登記抹消に必要な書類を交付したものである。」ことが認められ、右認定を左右する証拠はない。右認定のように弁済期にある貸付残金一、四五〇、〇〇〇円及び利息債権約四、〇〇〇円について、その担保として極度額金五〇〇、〇〇〇円の根抵当権と、金七八〇、〇〇〇円の定期預金債権に対する質権があるにすぎない場合債権者である被告は、いずれの担保権をも任意に実行することができるのであつて、根抵当権を保存する旨の特約があつたものと認められる証拠もない本件においては被告の前記根抵当権の処分をもつて被告が担保保存義務を履行しなかつたものということはできないのである。のみならず、前記認定のように被告は現実に根抵当権の実行による以上の弁済を受けているのであるから、前記根抵当権の抹消をもつて被告の違法な行為であるとなすを得ない。従つて、その余の判断をなすまでもなく、被告に対し債務不履行又は不法行為による損害賠償を求める原告の請求も理由がない。

以上のとおり、原告の本訴請求はすべて失当であるからこれを棄却。

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